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君の名は。

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発想

知らない者同士が、お互いに知らない場所で生きていて、もしかしたら二人は出会うかもしれない存在。現実は会えない、でも、何らかのカタチで触れ合う。
単純だけれど、そんな物語を作りたいという事が今作の動機でした。良く考えてみると、それは、僕たちの日常そのものだと思います。今まさに地方の田舎町で生活している女の子も、将来、都会に住んでいるある男の子と出会うかもしれない。その未来の物語を小野小町の和歌『思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを』(訳:あの人のことを思いながら眠りについたから夢に出てきたのであろうか。夢と知っていたなら目を覚まさなかったものを)を引っ掛かりとして、アニメーションのフィールドの中で描く事が出来ると思いました。その後は、「夢の中で入れ替わる」ことを軸に「彗星」や「組紐」など様々なモチーフを交えながら作品としての構成を組み立てました。

何よりも「楽しい」ことを

以前は、その時点での自分の能力や作業時間から最適解を導き出す作品制作を行ってきました。作品を生み出すごとにスタッフや協力者が増え、『星を追う子ども』の頃には自分自身の作劇の力も広がってきている実感から、誰もが楽しめるエンターテインメントのど真ん中をいつか作りたいという気持ちを持ち始めました。大前提として「楽しい」がありながらも、自分がずっとテーマとしてきた「切なさ」や「泣ける」要素がある作品。映画市場からの需要というよりも、直感的に「そろそろ出来るんじゃないか」という思いが、今作の企画書段階からありました。そこに、田中将賀さんのキャラクター、安藤雅司さんの圧倒的な作画力、そして、RADWIMPSの唯一無二の世界観が加わり、『君の名は。』のエンターテインメントとしての強度は確かなものになったと思います。

日本最高峰

田中さんのキャラクターは、とにかくかわいくてカッコいい。Z会のCM作品『クロスロード』での実績もあって想像は出来ましたが、みんなが心から好きになってくれる共感できる主人公を描いてくれました。田中さんの絵の素敵な部分をまさに凝縮したキャラクターになったと思います。それを安藤さんが料理してくれたのですが、さすが、「すごい」。スタジオジブリが守り続けてきた「ものづくり」の一端を安藤さんという伝説を通じて間接的ではありますが、文字通り突き付けられた気がします。その歴史と真剣さを、安藤さんの背中と鉛筆から教えて貰いました。職人であり、先生であり、自分の知らなかった世界を見せてくれた人です。

瀧と三葉

神木隆之介さんの声の芝居は圧巻の一言です。器は男の子で中身は女の子、つまり瀧だけでなく三葉として演じなければならないシーンがかなり多くあり、瀧は本当に難しい役どころだったと思います。神木さんは、その組み立てを完璧に作り上げていました。さらにその声はソフトで優しいのに、男子感がすごくある。神木さんだったからこそ、リアルで魅力的な瀧像になったと思います。上白石さんは僕にとって、外見も中身も含め全て「三葉」=「上白石」。ハツラツとした雰囲気や、すごく真っ直ぐな性格など、まさに僕が想像していた「三葉」そのものなんです。その存在自体が『君の名は。』の世界感にぴったりだった事に加え、抜群に上手いんですよ。まだ若い上白石さんのキャリアにとって、『君の名は。』は将来特別な作品になるはずだと信じています。

サービス

見たときに「ああ、楽しい映画だった!」って思っていただける事が何よりも大切です。泣いたり笑ったり、「楽しい」には人によって様々な要素が含まれていますが、劇場でこの作品を体験することが、その人の生活における幸せの一つになって欲しい。作品テーマとしては楽しさに収まりきらない深刻さも含んでいますが、まずは「楽しい」の為に様々な要素を積み上げて重ね合わせていった作品です。それは観客に対する「サービス」だという思いもあります。今までの作品は「サービス」というよりも、考えてきたことを何とか成立させるために精一杯でした。今作は安藤さん、田中さんをはじめとした豪華な制作陣、音楽、そしてキャスト、さらには様々な方々が協力し、生み出される作品です。色々な方の才能をお借りして、僕自身のベストな要素をかき集めて、自分なりに作品としての「サービス」を提供できればと思います。存分に楽しんでいただけることを、願っています。

新海誠(しんかい・まこと)

1973年生まれ、長野県出身。2002年、個人で制作した短編作品『ほしのこえ』でデビュー。同作品は、新世紀東京国際アニメフェア21「公募部門優秀賞」をはじめ多数の賞を受賞。2004年公開の初の長編映画『雲のむこう、約束の場所』では、その年の名だたる大作をおさえ、第59回毎日映画コンクール「アニメーション映画賞」を受賞。2007年公開の『秒速5センチメートル』で、アジアパシフィック映画祭「最優秀アニメ賞」、イタリアのフューチャーフィルム映画祭で「ランチア・プラチナグランプリ」を受賞。2011年に全国公開された『星を追う子ども』では、これまでとは違う新たな作品世界を展開、第八回中国国際動漫節「金猴賞」優秀賞受賞。2012年、内閣官房国家戦略室より「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」として感謝状を受賞。2013年に公開された『言の葉の庭』では、自身最大のヒットを記録。ドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭にて長編アニメーション部門のグランプリを受賞した。同年、信毎選賞受賞。次世代の監督として、国内外で高い評価と支持を受けている。