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君の名は。

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企画

新海誠の最新作の企画が始動したのは、東宝映像事業部が配給を手掛けた前作『言の葉の庭』の公開年、2013年の秋のこと。
「当初『言の葉の庭』はデバイスで見るような作品として制作されていたんですが、拝見してこれは劇場でかけるべき作品だと判断しました。そこで東宝では初めての試みとして劇場上映と同時にパッケージも発売させていただき、そこから監督とのお付き合いも始まったんです。公開後に全国23館を監督と一緒に回る中で、今度は一から一緒に作れたらと次の作品に向けての話もさせていただきました」(弭間友子宣伝プロデューサー)

2014年春から本格的に打ち合わせがスタート。原作ものを含めプロデューサー陣も案を考えていた中で、7月になって新海本人から「これだ!っていうものができそうです」と出てきたのが、『夢と知りせば(仮)-男女とりかえばや物語』と題された企画書。『古今和歌集』の小野小町による有名な和歌『夢と知りせば覚めざらましを(=夢と知っていれば目を覚ますことはなかったのに)』からモチーフを得た物語で、夢で見た少年と少女が男女入れ替わりに端を発して出会うドラマがそのときから構想されていた。〈糸守〉の設定や瀧と三葉という名前も、すでに企画書にあったもの。こうして製作に向けて動き出した、『君の名は。』。ここにさまざまなスタッフが参加して、作品は広がりを見せていくことになる。

スタッフ

本作でキャラクターデザインを手掛けたのは、『心が叫びたがってるんだ。』の田中将賀。また作画監督を務めるのは、『千と千尋の神隠し』など数多くのジブリ作品に参加してきた安藤雅司。そして音楽をロックバンド・RADWIMPSが手掛けている。
「田中さん、安藤さん、RADWIMPSさんのパワーを新海さんがうまく取り入れていて、誰が欠けてもこういう流れの作品にはならなかったと思います」(川村元気プロデューサー)
 それぞれ、新海誠との仕事だったからこそ本作への参加を承諾。田中と新海はZ会のCM・受験生応援ストーリー『クロスロード』でも組んでおり、相性のよさは実証済み。また田中の絵は、アニメーションファンはもちろん、多くの人たちが見てもアトラクティブに感じるもの。さらにその田中のキャラクターを日本アニメーション界の熟練の重鎮・安藤が描いて動かすことによって、これまでにない新海作品、ひいてはこれまでにないアニメーション作品となっている。

音楽もスタッフィングと同時期の2014年秋から動き出した。もともと新海の企画書に、曲のイメージとしてビートルズの『レット・イット・ビー』などが上がっていたことからロックを中心に話をしていた中で、新海から好きなロックミュージシャンとして名前が出てきたのが、RADWIMPS。奇しくも川村がボーカル・ギターの野田洋次郎と交流があったことから、一気に話は進んでいった。最初の顔合わせは、2014年10月。RADWIMPSは脚本完成後の段階から参加し、『前前前世』『スパークル』『夢灯籠』『なんでもないや』などボーカル楽曲4曲に加え、22曲の劇伴を制作。新海もまたRADWIMPSの音楽に喚起されて、上がってきた曲合わせでシーンの演出をつけるなど、歌詞含めて音楽を有効に取り入れている。音楽と絵の組み合わせというのも新海作品の妙。本作はその集大成とも言えるものにもなっている。

脚本とコンテ

プロットの打ち合わせを重ねて、脚本の第1稿が完成したのが、2014年10月。物語の流れと盛り上がりを新海が都度図表にして、ストラクチャー(構造)について話し合いが何度も重ねられた。
「作品としては新海さんの純度100%なものなんです。僕らがやったことは、いろいろな選択肢や意見がある中で“監督が一番やりたいことは何なんですか?”と問い続けることだけでした。ただストラクチャーに関しては、どれくらいエンタテインメント感を出すのか、何を伝えたいテーマの主軸とするのか、など意見を交換しながら揉みました。例えば後半のシリアスになっていきそうなところであえてコミカルが入ってきたほうが、メリハリがついて最後も泣けるのではないか、など。物語の流れ、シーンの見せ方については、最後のほうまでずっと整理を続けていました」(川村)

シナリオは基本線としては第4稿で固まり、最終的に第6稿をもって完成。それと同時に進められていったのが、絵コンテを基に動画にしたビデオコンテ(Vコン)作りだ。
「新海監督はデビュー当時から、このVコンで修正を重ねて精度を上げる方法で映画作りを続けてこられたのですが、この作り方は日本では珍しい。ピクサーのような北米のスタジオでも、ビートと呼ばれるVコンを作りセリフや効果音まですべて入れて、そこで編集で粘ってから絵に入っていくやりかたが主流です。Vコンで作品を検証するということを大事にしているんです。新海監督はずっとそのやり方で、やってきている。今回も限りなく完成形に近いものをVコンで作って、何回もラッシュして検証していきました」(川村)
 作品が完成していなくても作品のイメージをつかめるというのもVコンの利点。実際、神木隆之介や上白石萌音たちキャスト陣にも、アフレコ前にセリフ合わせの練習用のためVコンが渡されたが、セリフや効果音まで入った精度の高いVコンについ没頭してしまい、なかなか練習にならなかったのだとか。

キャスティング

三葉役は、新海いわく「何百人会ったとしてもきっと彼女だっただろう」とほれ込んだ上白石萌音に決定。そして、やはりこの人しかいないということで最初から名前が上がっていたのが瀧役の神木隆之介だ。
「新海さんのアーリーワークス3部作とも言える『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』のベスト盤ができたら嬉しいとずっと思っていました。男の子と女の子がいて、ただお互いのことが好きだっていう気持ちだけがあって、身近なラブストーリーをものすごく美しい世界観と距離の中で描く。今回、その3部作含めて新海さんの作品を理解して演じられる人が必要だなと思ったときに、ちょうど神木隆之介が新海さんの作品の熱烈なファンで、舞台となった場所にも通っていたという話を聞きまして(笑)。それに神木くんは声の演技も素晴らしい。宮崎駿監督と細田守監督の両方との仕事を経験している若手俳優は彼だけなんですよね」(川村)

男女が入れ替わる本作では、男の子の中に女の子が入っている状態も演じなければならない。それを違和感なく見せられる演じ手としても適任だったと、新海とプロデューサー陣。さらに、長澤まさみ、市原悦子といった豪華な役者陣も参加。声の芝居と音色で作品にさらなる彩りを与えている。